赤池完介インタビュー:ステンシルの真の定義

@Kansuke Akaike

 

ステンシル【stencil】
謄写版(とうしゃばん)用の原紙。また、捺染 (なっせん) 印刷で用いる型紙。ステンシルペーパー。(goo辞書より引用

ステンシル【stencil】の意味を辞書で調べると上記のように記載されています。ただ静岡県南伊豆を拠点に活動するアーティスト赤池完介によるステンシルの定義は、それとは大きく異なります。

赤池は試行錯誤を繰り返しながら、独自のステンシルの定義を構築し、アート作品として提示してきました。そんな赤池完介に対して、作品制作特にステンシルに焦点を当てたインタビューを行いました。是非お読みください。

 

— 作品の制作過程を教えてください。

Mathildaシリーズであれば、対象となる画像や写真をざっくりと確認し、単純な二階調化(白黒)のイメージを頭に描きます。アンディ・ウォーホルの作品がかっこいいのは、このバランスの良さだったりするので、どこのラインを拾って、どこを省略するかを探ります。多色の場合は、ハイライトをどう残すか、中間色をどう加えるかを同時進行で模索してイメージを膨らませていきます。

大体のイメージが固まったら、肝となる一番明度の低い版(ステンシル)の製作に取り掛かります。人物を描く時は顔が重要なので、目元からカッターナイフで切り抜いていきます。その後、鼻の穴、口とパーツを最小限の大きさで切り抜き、バランスを見ていきます。

女性の場合、鼻の穴やしわを強調すると可愛くなくなるので、実際と異なっていてもそこは絵なので美化させていきます。唇は柔らかいライン取りになるように特に気をつけます。顔が決まった後は、同じ明度の箇所を切り抜いていきます。肌と服の質感は異なるので、その辺りのライン取りもいちいち気を配ります。版を作り終えたら彩色の過程に入ります。

彩色の作業は感覚的に進めます。頭の中で大体のイメージは出来上がっているので、そのイメージを試して、気に入らなければ彩色し直したり、上から別の色でグラデーションを吹き付けて退屈に見えないようにしたりと、一回で決めない時もあります。

スニーカーの彩色は、やり直しが効かないので、ある程度シミュレーションを重ねた後、彩色作業に移ります。作品によって彩色のやり方は大きく変わります。ただ僕のやり方は、全ての過程にこだわりがあるため、ステンシルの持つ速攻性や量産性とは対照的です。量産には向いていないです。

 

@Kansuke Akaike

 

— ステンシル(型紙)を作る際に、何度も紙を切っては捨てを繰り返されますが、あの過程は鉛筆でデッサンを描いているような感覚なのでしょうか?

型紙の製作は、複雑に混じり合った情報をひとつなぎの図形に簡略化する作業なので、そこにはセンスと個性が出てくると考えています。

デッサンというよりは、彫刻家やプロダクトデザイナーが、流線型の淀みないシルエットのオブジェなりボディを作る時に、粘土などの原型素材を削り出して理想に近づけていく感覚です。できるだけシンプルに省略していきながら、いかに心地よいラインを取ることができるか、緊張感のある中で作業しています。

ステンシルアートの中には、Photoshopで二色化した画像をそのままなぞってライン取りしているような作品が見られますが、そういったものは何も感動させられません。ステンシルアートは、白黒の図像をなぞって切り抜いてスプレーすれば、誰でも無個性に大量生産できる技法です。故に作品を見た時に「あのアーティストの作品だ」と認識されることがとても重要だと思っています。

作る側としては、どれだけ時間や手間がかかったかはどうでもいい話で、純粋にビジュアルでどれだけ見る人を引きつけられるかが肝だと捉えて制作に取り組んでいます。それが全てのアーティストにとって大事な「スタイル」を確立することに繋がっています。

@Kansuke Akaike

 

— スプレー缶ではなく、エアブラシを使って作品を描かれていますが、何か特別な理由があるのですか?

ステンシルを始めた当初は、ストリートの持つ反抗心や枠に収まらないインディペンデントなエネルギーをキャンバスにぶつけたいとの思いから、スプレー缶を使っていました。

どんな作品が作りたいか、オリジナリティとは何か、アートの持つ魅力とは何か、クオリティとは?など色々な事と向き合った時に、自分にとってスプレー缶はそれほど意味を持たない事を認識しました。それよりも自分らしくある方を選びました。

「誰よりも細かく作る」「丁寧に作る」「多色で作る」といったような、ストリートでステンシルやスプレー缶が使われる意味合い(速攻性や耐久性など)とは真逆のやり方が、予備校時代に真面目にデッサンを描きまくってきた自分にはしっくりきました。

これによって、ここまで細かく綺麗に作られたステンシルアートは見たことがないとの声をもらいました。海外では日本美術のルーツを感じる、日本人にしか描けない作品だと高い評価を得ました。このことは、自身のキャリアに対しての肯定感やアーティストとしての自信を与えてくれました。

 

— Stay Home Art Projectでは、紙とキャンバスの両方で作品を発表されていますが、描く対象のサイズによって、制作方法は大きく変わりますか?

描く対象が大きくなると、その分スプレーする面積が大きくなり、グラデーションのようなテクニックを多用できます。均質に塗布されないのがステンシルの面白味でもあるので、大きい作品にはよりそういった効果的な技術を加えます。いろんな箇所に見所を作っていくような意識です。大きい作品なので、見る人を飽きさせないという意識です。

@Kansuke Akaike

 

— 辞書にステンシルの定義を自由に記載できるなら、どう書き込みますか? 

Do It Yourself. 誰でも簡単に生産できる印刷技術を使って、お前だけのやり方を探し出せって。他人は気にするな、自分の道を行けって記載します。

 

— 近い将来、アート関連で何かワクワクするような計画があれば教えてください。

実は表にあまり出てないのですが、自分の作風が向いているからか、著名なアスリート、ミュージシャンやその関連の方々から肖像画やスニーカーカスタムの依頼をお受けして制作しています。

また商品デザイン関連では、昨年2月に台湾で展示したご縁から、”THREE LEAFS TEA”というお茶ブランドの限定パッケージを手掛けました。展示関連では2月11日から23日まで、茅ヶ崎のFLOWER COFFEE/BREW BARで”DESIGNART TOKYO 2020”で発表したkweli surfboardsとのコラボ作品を巡回展示します。春には昨年行うはずだったスニーカー絡みの展示イベントも予定しています。

自分にとって最もワクワクしていることは、4月から南伊豆から離れ新たな制作環境で始動することです。少しだけ都会に近づくのですが、それによって作品や目指す方向にどのような影響が出て、それがどういう結果をもたらすのか楽しみです。南伊豆での充電がたっぷり整ったので、不安もありますが、それを越えてまた次の段階に進めるだろうと期待してます。

 

 

 

赤池完介(Kansuke Akaike)
1974(昭和49)年京都生まれのアーティスト。繊細な写実表現が特徴的なステンシルアートを国内外の個展・グループ展で発表。2007年ブラジル・サンパウロのGeleria Deco で“犬とドライブ”と題した個展を開催。2015年より活動拠点を東京から南伊豆に移す。2019年海ゴミ問題を斬新な切り口で描いた個展“みんなのうみ”を茅ヶ崎で開催。その他にも「車椅子バスケットボールWORLD CHALLENGE CUP 2018」や「Hi-STANDARD x スカパー!#playthegift キャンペーン」のポスターを手掛けるなど、活躍の場を広げている。2020年4月、新型コロナウィルスの影響により、自宅で自粛を余儀なくされる人たちへ向けたプロジェクトStay Home Art Projectを開始。一般募集した“描いて欲しい著名人”のポートレイトをSNSに日々投稿中。

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