活版印刷の歴史 & 高木耕一郎の新作リリース情報

New Release Information and a brief History of Letterpress Printing
©Jet-Black Gallery

2022年末、Jet-Black Galleryは高木耕一郎と手を組み、シルクスクリーン作品『Your Radiant Light is Traversing Space and Time』を発売し、特別版は数日で完売となりました。

ご購入いただいた方々には、この場を借りて感謝申し上げます。ありがとうございました。通常版は絶賛発売中なので、よろしくお願いいたします。

高木耕一郎の作品を愛するファンに再び嬉しいお知らせがあります。

Jet-Black Galleryは、高木耕一郎による新たなエディション作品『All I Wanna Do Is Just Be What I Wanna Be』を2月26日(日)21時より発売します!前作のシルクスクリーン印刷に代わって、高木の最上級の作品を4色刷り活版印刷(樹脂凸版を使用)によって具現化しました。

本記事では“活版印刷”をテーマにして、1. 活版印刷とは、2. 私たちの生活を変えた活版印刷、3. 活版印刷の凹みは美しいか否か、4. 活版印刷とアートの4点について記載しました。是非最後までお読みください。

 

活版印刷とは

Image by Ron Greene from Pixabay

活版印刷*は、凹凸のある版の凸部分にインクを塗布し、上から紙に圧力を加え、文字や絵柄を転写する印刷技法です。印鑑をイメージすると理解しやすいでしょう。

*厳密に述べると活版印刷と凸版印刷を分けて説明する必要がありますが、ここでは一般的に定着している“活版印刷”という表現をあえて使います。

 

私たちの生活を変えた活版印刷

Letterpress Literally Changed Our Lives
Photo by Natalia Y. on Unsplash

活版印刷技術の発明者は、ドイツ人のヨハネス・グーテンベルクといわれています。活版印刷以前は、手書きで本を製作し、その本を複製する場合には、手で書き移して写本を作っていました。膨大な時間と労力を費やすため、想像に難くなく、印刷物は極めて貴重で高価なものでした。

グーテンベルクの発明として、可動式の活字が挙げられます。アルファベットを「a」「b」「c」といった具合に別々に作ることを考案しました。グーテンベルクは、刀剣の装飾を行う金工師(きんこうし)であったため、その経験と技術を活かして、金属で活字を作り、それらを組み合わせて本を製作しました。

1450年頃、グーテンベルクが5年の歳月をかけて、最初に完成させた本が『聖書』です。彼が作った『聖書』は、三分の二が紙に三分の一が羊皮紙に印刷されています。『聖書』は約180部印刷されたといわれていますが、現存するのは48部しかなく、そのうえ不完全本です。ちなみにグーテンベルクが活版印刷した『聖書』は、日本の図書館にも所蔵されています。

Image by falco from Pixabay

10年程で、グーテンベルクの発明した活版印刷技術はヨーロッパ各国に広がりました。活版印刷の登場により、同じ内容の書物が、短期間で多数印刷できるようになり、そのうえ安価で発売されるため、急速に普及しました。

16世紀初頭、マーティン・ルターはドイツにおいて、宗教改革の運動を起こしましたが、この歴史的な出来事を促進したのが活版印刷だといわれています。活版印刷によって彼の思想は、パンフレットやビラ、本として印刷され、ヨーロッパ中に広まりました。活版印刷という速く広く伝える手段がなければ、ルターの宗教改革は存在しなかっただろうとも考えられます。

活版印刷が当時の人々の生活を変えたことは明白であり、私たちの時代でいえばインターネットの登場と同じぐらいの衝撃だったと想像します。活版印刷は、それ程までに歴史的に価値のある発明だったのではないでしょうか。

 

活版印刷の凹みは美しいか否か

©Jet-Black Gallery

活版印刷の魅力として、紙面上の凹みを挙げる人は少なくないと思います。ただ昔は、紙面上の凹みは、欠点として認識されていました。

オフセット印刷の発明により、活版印刷の主な用途は、新聞・雑誌・広告から、名刺・グリーティングカード・ポスターなどへと変遷していきました。活版印刷の役割は、「多部数で標準品質のモノ」から「少部数で高品質のモノ」へと変わったのです。

新聞や雑誌は、両面印刷が一般的で、凹凸があると読みにくくなるので、フラットな印刷が最適といえます。一方で、名刺やグリーティングカードであれば、デザイン的なインパクトが強まり、受け手に強い印象を残すので、印圧による凹みはあったほうが良いでしょう。

結論としては、印刷する対象や求められる効果などによって、活版印刷の凹みは美しくもあり、醜くもあるという答えが適当ではないでしょうか。

 

活版印刷とアート

 

活版印刷を使用して作品を制作しているアーティストの代表格といえば、米国出身のアーティスト シェパード・フェアリー(Shepard Fairey)別名Obey Giantではないでしょうか。シェパードは定期的に活版印刷を使ったエディション作品を発表しています。公式サイトで販売される作品の大半は、1分程で完売するほど高い人気を誇っています。

Obey Giantが公開している上記映像『Welcome Visitors – Behind the Scenes with Aardvark Letterpress』は、活版印刷がいかに手間暇を要する印刷技法であるかを教えてくれます。活版印刷は、高速化が進む現代社会とは、非常に相性が悪いと考えられます。オフセット印刷と比べて、活版印刷は非効率的で、さらに品質を均一に保つことも得意ではありません。紙面上の凹み、インクのにじみや掠れなど、印刷結果が不均一となる可能性は多分にあります。

ただ、これらの欠点こそが、人の発想や技術の入り込む余地を生み出し、よりユニークな創作を可能とするのです。このことは、アートと活版印刷の相性の良さを示しています。

高木耕一郎の新作『All I Wanna Do Is Just Be What I Wanna Be』は、アートと活版印刷の組み合わせがいかに素晴らしいかを証明してくれます。4色刷り活版印刷によって誕生した本作は、2月26日(日)21時より当ギャラリーにて発売されます。ご期待ください!

 

 


参考資料:

・グラフィック社編集部『デザインの引き出し37  活版・凸版印刷でモノ感あふれる紙ものづくり』(グラフィック社、2019年)
・グラフィック社編集部『デザインの引き出し10 凸版・活版印刷でいくのだ! 』(グラフィック社、2010年)

・シャーロット・リバース 『世界の活版印刷 グラフィック・コレクション』(グラフィック社、2010年) 
・宮谷 宣史『グーテンベルク42行聖書』(関西学院大学リポジトリ、2002年)

・OBEY GIANT, “Welcome Visitors – Behind the Scenes with Aardvark Letterpress”