赤池完介インタビュー:『ドキュメンタル』出演芸人を描く

“MATSUMOTO HITOSHI”『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル 8 (Amazon prime video)』2020 

 

お笑いドキュメンタリー番組『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル(以下ドキュメンタル)』シーズン8が、2020年8月21日(金)よりAmazon Prime Videoにて独占配信されています。松本人志氏が企画・プロデュースを手掛ける『ドキュメンタル』は、2018年上半期のPrime Video総合ランキング1位を獲得するなど、絶大な人気を誇るAmazon Original番組です。

大人気番組の最新シリーズ(シーズン8、エピソード1)にて、静岡県南伊豆を拠点に活動するアーティスト赤池完介が手掛けた総勢11名のお笑い芸人のポートレイトが映像素材として使用されています。ステンシル(型紙)とエアブラシを駆使し表現されたポートレイトは、番組内でも圧倒的な存在感を放っています。そんな才能溢れるアーティスト赤池完介に対し『ドキュメンタル』のポートレイト制作に焦点を当てたインタビューを行いました。是非お読みください。

 

— 8月21日(金)より『ドキュメンタル』シーズン8の配信が開始され、赤池さんの描いた芸人のポートレイトが番組で使用されました。実際に番組を見ての感想をお聞かせください。

昨年末にお仕事させて頂いた「RIZIN 20」の動画と同じ映像制作会社との仕事だったので、今回は僕の描いたワンカットをどのように料理してくれるのかと楽しみにしていました。キャッチコピーも加わって、オープニングにふさわしいワクワクするビジュアルに仕上がっていて、素直にカッコいいなと思いました。

“COOKIE!”『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル 8 (Amazon prime video)』2020

 

— 芸人のポートレイトを描くにあたり、各芸人を調べるなどの何か特別な下準備はされたのでしょうか?

『ドキュメンタル』は好きで事前に観ていたので、特に調べたりすることはしませんでした。番組に対しては、地上波では放送できない際どいネタが特徴的な「地下格闘技」的なイメージを持っていました。『ドキュメンタル』の持つダークサイドな雰囲気と、言わば極限状態とも取れる状況での人間の裏の顔のようなものを一律に表現したいと思い制作に取り組みました。

 

— 総勢11名の芸人のポートレイトを描きましたが、最初はどなたから制作を始められたのですか?

くっきー!さんの不気味さが、僕のイメージした「地下格闘技」感に一番近かったので、このビジュアルで方向性を決められるのではと直感的に思い、一番に手を入れました。イラスト化=二次元化するようなものなので、ゲームや漫画に出てきそうなインパクトのあるくっきー!さんの風貌は、絵にしやすいということもありました。思った通りうまく行ったので、このノリで後に続けとどんどん進めていきました。

“KENDO KOBAYASHI”『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル 8 (Amazon prime video)』2020

 

— 芸人のポートレイトを制作するうえで、特に難しかったことは何ですか?

やはり松本人志さんを描くことが一番難しかったですね。この番組のポジションとして松本さんはラスボスなので、閻魔大王のような雰囲気を出せたらと考えていました。下地になる赤色のグラフィックは、悪魔の角や牙をイメージし、切り抜く形を鋭利にすることで、怒りや刺々しさを醸せるように工夫しました。松本さんのおでこ辺りの表現は、デビルマンの角のようなイメージで、尖らせたりして図形化しています。

 

— ポートレイトに描かれている背景の表現が印象的ですが、あのスプレー表現はどのようにして生まれたのですか?

『ドキュメンタル』の話が来たのが3月頃で、当時とある著名人のポートレイト作品を実験的に作っていました。この作品の要素の一つとして背景にラフなスプレーの質感を加えることを試しました。この背景の表現が雰囲気良く仕上がったので、『ドキュメンタル』のポートレイトにも活用し、11人の芸人さんを一気に描き、そのままの流れで#Stay Home Art Projectのポートレイトにもつなげていきました。

“CHANCE OOSHIRO”『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル 8 (Amazon prime video)』2020

 

— 限られた色味を使って、秀逸にポートレイトが表現されていますが、色遣いについて気をつけた点があれば教えてください。

今回の依頼では、特に細かな指示はなく、自由にアートワークをやってくださいという内容でした。ただ、一点だけ『ドキュメンタル』 のイメージカラーが赤と黒なので、そこは少し気に留めてもらえればということがありました。『ドキュメンタル』のポートレイト制作において、試行錯誤を繰り返す中で、色についてどう対処すべきかが一つのテーマとなりました。赤と黒のみでポートレイトを制作すれば、何も問題は起こらないのですが、予定調和なものとなってしまいます。それではつまらないと思っていました。

映像制作会社の方の期待にも答えたかったですし、「おお!そう来たか!」といった驚きや見る人に刺激を与えられる作品を制作したいと考えていました。このことは自分の中でクリアすべき壁として設定していました。赤と黒で構成された『ドキュメンタル』の世界観を壊さずに、驚きや刺激を違和感なく与えられるもう一色は何だろうと考え制作に取り組み、青色を使うことにしました。結果的に青色を加えたことが引き金となり、ポートレイトの方向性が決まり、今までにない格好良い作品に仕上げることができました。

“Stencil Documental Logo”『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル 8 (Amazon prime video)』2020

 

— 近い将来、アート関連で何かワクワクするような計画があれば教えてください。

今取り組んでいるものは、南伊豆在住のサーフボード・ビルダーと手を組んで、彼の作ったサーフボードに僕がステンシルでグラフィックを施すコラボ作品を制作しています。また、環境問題に則した作品を作るべく、地元の樹木医という専門知識を持った木こりの方と一緒に日々アイデアを出し合っています。森の問題は海にも直結しているので、これまで続けている海ごみプロジェクトに厚みを持たせられたらと考えています。静岡県内に11月頃に新しくオープンする施設への壁画の案件もあります。

自分の制作としては、最近は誰かとのコラボレーションや、自分が持っていない領域のスペシャリストと組んで、新しいものを生み出すことに興味があり、色々な方に声をかけたりしています。ステンシル技法を20年近く続けてきて、このスタイルや媒体でできる事をさらに拡張させ、世界で活躍するアーティストのように飛び抜けたオリジナル表現を生み出したいと常に考えて生活しています。それを具現化して、こんな状況でもどんどん作品を発表する機会を作り、アーティストとしてさらに活躍していきたいと思っています。

 

 

 

赤池完介(Kansuke Akaike)
1974(昭和49)年京都生まれのアーティスト。繊細な写実表現が特徴的なステンシルアートを国内外の個展・グループ展で発表。2007年ブラジル・サンパウロのGeleria Deco で“犬とドライブ”と題した個展を開催。2015年より活動拠点を東京から南伊豆に移す。2019年海ゴミ問題を斬新な切り口で描いた個展“みんなのうみ”を茅ヶ崎で開催。その他にも「車椅子バスケットボールWORLD CHALLENGE CUP 2018」や「Hi-STANDARD x スカパー!#playthegift キャンペーン」のポスターを手掛けるなど、活躍の場を広げている。2020年4月、新型コロナウィルスの影響により、自宅で自粛を余儀なくされる人たちへ向けたプロジェクトStay Home Art Projectを開始。一般募集した“描いて欲しい著名人”のポートレイトをSNSに日々投稿中。

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