高木耕一郎インタビュー:考える行為へ向かわせるアート

“In The Black”, 2014, ©Koichiro Takagi


Jet-Black Galleryでは、注目すべきアーティストのインタビュー記事を日本語と英語の2言語で定期的に掲載していきます。インタビュー企画の第四弾は、東京を拠点に活動するアーティスト、高木耕一郎(たかぎこういちろう)。

高木耕一郎は、現代社会の抱える“違和感”をテーマに作品を制作しています。違和感を辞書で調べてみると、“生理的、心理的にしっくりこない感覚”と記載されています。しっくりこない感覚を持つと、人はその原因を探る傾向にあるように考えられます。

その違和感をきっかけにして、原因を突き止めるべく、人は考えるという行為に向かうように思います。高木の作品に内包された“違和感”は、見る者に考える機会を与え、新たな視点や価値観の発見に導きます。考える行為へ向かわせるアートを生み出す高木耕一郎のインタビュー、是非お読みください。

 

— 簡単に自己紹介をお願いします。

1974年東京生まれ。母親が美大出身で親戚周りにも絵描きが多かったので、わりと子どもの頃から芸術には親しんで生活していました。そのため、子どもの時から絵を描くのは好きでした。家がカトリックで小学校まではカトリックの学校だったので、教会の影響を強く受けていました。中学校からは急に左翼っぽい学校だったので、リベラルな教育を受けて、それと同時にハードコアを聞き始めたりスケートボードをし始めたりして、その周辺の影響をどんどん受けていきました。

日本の大学で版画を学んだことをきっかけに、サンフランシスコのアートスクールでも版画を専攻し、シルクスクリーン、エッチング、リトグラフなどで作品を制作していました。卒業後もニューヨークに移って、版画をやろうと思っていたので、スタジオスペースの審査を受けて、タダで機材を使わせてもらったりしていました。色々な人がいて楽しかったのですが、使いたい時に使えなかったり、機材が古く使いづらかったりで、家で制作した方が良いなぁと思ってペインティングを描き始めました。

“I follow my own law”, 2019, ©Koichiro Takagi


ペインティングをしていた時期、FAILEのポスターがニューヨークの街中に貼ってあって、カッコいいので連絡をしてみたら展示会に来てくれました。その縁でステンシルを教えてもらって、自分もステンシルをやるようになりました。版画をやっていたこともあって、ステンシルは自分にすごく合っていて、最初の頃はペインティングで描いたモチーフを使ってステンシルを作っていましたが、そのうちにステンシル用のデータを作るようになっていきました。

ステンシルを教えてもらってしばらくした後に東京に戻って来ました。東京に帰って来てからは、ペインティングとステンシルの作品を制作していました。2009年に布にステンシルをして、それを下絵にして刺繍した作品を展示してみたところ、周りの反応が良かったので、刺繍の作品をよく作るようになりました。現在は今まで取り組んできたステンシル、ペインティング、刺繍を混ぜたミクストメディアの作品を多く作っています。

 

— アーティストを志す具体的なきっかけはありましたか?

アーティストを志したことは特にはありませんが、就職もせずフラフラと絵を描き続けていたので、日本に帰った時に職歴もなくボーっとしていたら、それしか選択肢がなくなっていたという感じです。

“Wide Awake”, 2009, ©Koichiro Takagi

 

— ブルックリンを拠点に活動するアーティスト集団FAILEの影響により、ステンシルを始められたようですが、彼らからどんなことを学びましたか?

僕がニューヨークにいた2000年頃、FAILEのポスターが街中に貼られまくっていて、カッコよかったので連絡をしてみたら、展示を見に来てくれました。FAILEは当時3人組だったのですが、その中の一人が日本人のAIKO(現在はFAILEを離れ、LADY AIKOとして活躍しています)という女の子でした。

街にボムりに行くのがAIKOちゃんだけだったりする時に、見張りをやるようになって仲良くなりました。見張りをやるなら自分でもステンシルの版を切って持ってきなよと言われて、ステンシルをやるようになったのですが、最初はうまく版が作れなくてイマイチな感じでした。それなら、スタジオでどうやって作っているか見せてあげると言われて、見せてもらって版の作り方を教わりました。

アメリカの学校では、技術的なことだけではなく、アートをどうビジネスにするか、どう自分を売り込むかということも学びました。最終的には、作品だけで生活できるようになるのが目標ですが、最初は作品を売ること以外でも自分たちの絵をどうやってお金にして生活するかをアメリカのアーティストは考えている気がします。当時のFAILEは、作品もすでに売れていたし、デザインも多く提供していたので憧れでした。


—  主に刺繍の技法を使って作品を制作されていますね。いつ、どのようにして刺繍の技法を表現手段として選んだのですか?

たまたま手刺繍のワッペンをもらう機会があって、これは自分でもできるし、ステンシルを下絵にして刺繍をしたら面白いものができるのではと思って試しにやってみました。刺繍をすることは楽しかったですし、完成した作品も良い感覚がありました。

大好きなハードコアと同じく初期衝動が大切だと思い、本などは読まず独自の制作方法を試行錯誤しながら探求しました。結構大変でしたが、試作を色々な人に見せると反応が良かったので、少しずつ作り続け刺繍を始めて2年後にやっと刺繍の作品を集めた展示をすることができました。今では当時の自分が驚くくらい早く刺繍ができるようになりました。

“Convinced your lies are truth”, 2019, ©Koichiro Takagi

 

— 刺繍糸は、絵の具の色を選ぶのと多少差異があると推測しますが、色を決めるときは、どのようなことを考えていますか?

色は基本的にイラストレーターでデータ作った時に決めていますが、最終的には刺繍している時の感覚を信じて色を変えたりもします。僕の場合は、ペインティングも頭の中にビジョンを持って描き始めて、その時の感覚で色を変更したりするので、刺繍をやる時とあまり変わらない気がします。他にも筆のストロークと糸のストロークが感覚的に似ていたりするし、刺繍をしているというか、糸で絵を描いている感覚でやっています。


— 動物をモチーフにした作品が多いですが、何か特別な意図があって描いているのですか?

最初の頃から動物が好きでたくさん描いていましたが、人物を描いたりすると「誰なの?」と聞かれることがありました。特定の誰かというわけではなく、絵のストーリーの中の登場人物というだけなので、動物の方が色々な記号や象徴にもなって意味が分かりやすくなると考えています。絵を通して意味やストーリーを見出しやすいのに加えて、動物を描き続ければアーティストの個性にもなると思っています。

“Interceptor”, 2007,  ©Koichiro Takagi


— 英語での表現が作品によく出てきますが、今までで一番気に入っているものを教えてください。

Dark is not Evil (参照)
“これは悪魔ではなく、私にとっての神である。あなたが悪魔だと思っているモノは本当に悪魔なのだろうか? この神があなたを古い神の束縛から解放してくれることだろう。しかし私は宗教の話をしているのではない。ここで私が言う「神」という存在はあくまでもイコンであり、その偶像の先にある「何か」を伝える手段であり、象徴や記号、時には暗号でもあります。大きな権威や思想、意見、習慣を盲目的に信じ込むのではなく、一度疑問を持ってみては? ”
といった内容です。自分の考えを持ち、そして他人を受け入れ尊重し合おうということを表現しています。


— 近い将来、アート関連で何かワクワクするような計画があれば教えてください。

今年は新型コロナウィルスの影響で色々と予定が変わってきていますが、8月にHENRY HAUZでアーティストのHirottonと2人展を開催する予定です。彼も動物の作品をよく描くアーティストなので一緒に描いている作品も多数あります。

 

 

高木耕一郎(Koichiro Takagi)
東京で生まれ、San Franciscoのアートスクールで様々な素材を学び、しばらくNYを制作拠点にした後に帰国した高木はペインティングから刺繍まで作風の幅は広い。しかし幅広い表現方法において一貫して言えるのは彼の作品はある種の居心地の悪さや矛盾を内包しており、モチーフに「人」がほとんど出て来ることがないことである。モチーフは多くの場合、動物や擬人化された動物達であり、その表情は時にかわいらしく、時に牙をこちらに向け鑑賞者を睨みつけている。そこには動物を主人公にした作品だからこその匿名性と神秘性が内包され、親近感と違和感が混在する奇妙な居心地の悪さを生む。高木の作品は揺れ動く人々の心情や抱えている矛盾を描きながら、見た事は無いがあると信じたい理想郷の存在を表現している。理想郷への導き手として彼の作品の主人公の表情に秘められた様々な思惑は、鑑賞者の内面に対して今一度、揺らぐ価値観の中での各々にとっての真実とは何かを問いかけている。国内外の企画展やグループ展の参加や個展開催で画家として精力的な活動し、BEAMS、PORTERやPaul Smithなどのアパレルブランドへのデザイン提供やコラボレーションも多く行っている。NY Timesなど国内外のメデイアにも紹介されている。(高木耕一郎公式ホームページより引用)

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