Spidertagインタビュー:鑑賞者とアートの関係を緊密化させるネオン

“Interactive Neon Mural #1”,  2018, ©Spidertag


Jet-Black Galleryでは、注目すべきアーティストのインタビュー記事を日本語と英語の2言語で定期的に掲載していきます。インタビュー企画の第三弾は、スペインのマドリードを拠点に活動するストリートアーティスト、Spidertag(スパイダータグ)。

Spidertagは、“Interactive Neon Mural(インタラクティブ・ネオン・ミューラル)”と題したユニークな壁画を世界中で描いています。柔軟なネオン管によって制作される彼の壁画は、ポルトガル、フィンランド、米国、カナダ、タイ等、大陸をまたいで見ることが出来ます。

夜の訪れと共に、Spidertagの壁画は美しい姿を現し、ネオンの光によって街を照らします。色鮮やかなネオンの輝きに吸い寄せられた人々は、スマートフォンのアプリを使って、壁画との触れ合いを始めます。夜行性の創造物は、見る人の好みによって、色やトーン、光方を変化させます。Spidertagは、ネオンの光によって、鑑賞者とアートの関係を緊密化させるのです。そんなストリートアートの在り方を進化させたSpidertagのインタビュー、是非お読みください。

 

— 簡単に自己紹介をお願いします。

僕が初めて壁画を描いたのは、10歳くらいの頃だったと思います。祖父母の家で描いた2×2mの壁画でした。学校終わりに、デッサンを学んだりもしていました。それからバスケットボールの下部リーグでプレイした後、映画や彫刻など様々なことを勉強しました。悪さをして追い出されたこともありました。

その後、ストリートアートやグラフィティアートと出会いました。この出会いは、僕にとって創造性の自由へ導いてくれるものでした。ちなみに、僕は好奇心の強い人間で、文化、芸術、ゲーム、SF、歴史、文学、映画、建築と様々なことに興味を持っています。

The exhibition “Reflexions of the Neon Dream”, 2020 @minimao.np

 

— アーティストを志す具体的なきっかけはありましたか?

特にありませんでした。気がついたら、アーティストになっていました。アーティストとして生きること、それが僕の存在意義だと思っています。アーティストは、パートタイムの仕事でもなければ、職業でもありません。アートは、人生、そして情熱そのものです。


— “Interactive Neon Mural”シリーズは、あなたの作品の中で最も有名なものだと思いますが、どのようにして、あのような素晴らしい作品のアイデアを思い付いたのですか?

長い間、ライトや蓄光塗料を使って実験を繰り返していました。同時に、巨大な壁画の制作を可能にする素材も探していました。なので、素材(柔軟なネオン管)を見つけた時は、僕にとってまさに奇跡の瞬間でした。壁画との触れ合い(注1)が可能になった時も同様の気持ちでした。ストリートアートやミューラリズム・ムーブメントの観点から、僕は大きな一歩を踏み出せたと感じました。

(注1)Spidertagの壁画はスマ-トフォンのアプリによって色やトーン、光方を変えられます。

“Interactive Neon Mural #4”, 2019, ©Spidertag

 

— 壁画制作のために世界中を旅していますね。これまでで一番印象に残っている国や都市はどこですか?

僕は壁画を描くために世界中を旅することが好きで、どの国も忘れられない大切な思い出があります。例えばモントリオールは、街、プロジェクトともに特に印象に残っています。街のオルタナティブ(型にはまらない)な雰囲気がすごく気に入りました。あと、地下にバスケットコートがあるホテルに宿泊し、壁画を制作し、人と出会ってといった感じで最高でした。


— “Interactive Neon Mural”シリーズにおける色遣いが印象的ですが、色を決めるときは、どのようなことを考えていますか?

1色で作品を制作していた時期もあれば、3色以下で制作していた時期もあります。 その後、できるだけ多くの色を使うことにしました。僕の壁画はスマフォ・アプリで色やトーンを変えられるので、色を多く使うことは、よりよい効果を生んでいると思っています。僕は常に様々な環境下で、どの色が効果的であるかを試しています。

“Interactive Neon Mural #6”, 2019, ©Spidertag


— 主に柔軟なネオン管を使って作品を制作されていますね。どのようにして柔軟なネオン管を表現手段として選んだのですか?

僕は、古いガラス製のネオン管が好きなこともあって、20世紀中期のネオンとアートの関係について研究していました。2015年頃、僕は斬新で未来的な体験を表現できる、新しい素材を探していました。斬新かつ、一般家庭の電気の様に簡単に設置が出来る何かを。そして遂に、現代版ネオン(注2)に出会う事が出来ました。古き良きネオンの雰囲気を現代で表現できるこの素材。この素材との出会いによって、僕にとっての新時代、ネオンメトリー(ネオン+幾何学模様)が幕を開けました。

あと、世界中を旅してきたおかげで、“未来的なネオン”と“単純な古い様式の言語”を組み合わせるアイデアを思い付きました。すごく良い組み合わせだと思っています。非具現的な表現を用いた“原始言語としてのシンボル”と巨大壁画の制作を可能にさせる“未来的なテクノロジー”との対比が、僕はすごく気に入っています。

(注2)従来のネオン管はガラス製だったため、加工や設置に職人の高度な技術が必要でした。現代版ネオンはシリコンチューブにLEDを入れた柔軟な素材で一般の方にも設置が可能になりました。


— 日本に関連した質問をしたいと思います。日本の第一印象を教えてください

日本は旅行で一度行きましたが、東京のことは大好きになりました。伝統的な庭園と都会の近未来的なスタイルとの対比にすごく感動しました。近いうちに、Interactive Neon Muralを制作するために、また日本に行けたらと思っています。

“Interactive Neon Ceiling”, 2019, @marina.g.vas


— アーティスト・音楽家・作家など、芸術に特化して日本から影響を受けた人やものはありますか?

もちろん。例えば、レトロなゲーム。黒澤明、小津安二郎、宮崎駿、北野武などの日本映画もたくさん見ました。あと、AKIRAやエヴァンゲリオン、ロボテック(欧米版マクロス)、進撃の巨人と幅広くチェックしています。

 

—近い将来、アート関連で何かワクワクするような計画があれば教えてください。

新型コロナウィルスの影響で65日間家に閉じ込められていて、今このインタビューに答えています。今年は素晴らしいプロジェクトで埋まっていたのですが、期待していたものはゼロになってしまいました。この問題がどう続いていき、どう解決されていくのかは分かりません。でも、この暗闇から抜け出したら、アートで再び世界を照らすことができたらと思っています。現代版中世ヨーロッパ(中世にペストが流行)のような場所で生活はしたくないですからね。

 

 

 

 

 

Spidertag(スパイダータグ)
2008年よりSpidertagは、ストリートアーティストとして、幾何学や抽象、ミニマリズム、昨今ではシンボリズムといったテーマを再解釈したアート作品をストリートに誕生させている。2015年の柔軟なネオン管との出会いは、Spidertagの作品をさらなる高みへと押し上げることとなった。運命的な出会いから現在に至るまでSpidertagは、より一層の飛躍を目指し、研究開発を続けている。Spidertagの興味は、ロシア構成主義やSF、キネティック・アート、電子音楽、オルタナティヴ・ミュージック、文学、ゲーム、グラフィティ、現代ミューラリズム、近代建築等、多岐にわたる。

https://spidertag.wordpress.com/
https://www.instagram.com/spidertag/