アート好きの方なら、“シルクスクリーン”という言葉は聞いたことがあると思います。ただ、具体的にどんな印刷方法なのかご存じですか?
アート作品の中には、シルクスクリーンの印刷技法を使って制作されているものが多々あります。代表例としては、アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインなどの作品が挙げられます。
アート好きであれば、作品がどのような過程を踏んで完成に至っているのかを知りたいと思うのではないでしょうか。
本記事では、シルクスクリーンについてできる限り専門用語を省いてお伝えします。また、「シルクスクリーン」「スクリーン印刷」 「セリグラフ」、これら3つの用語の違いについても説明したいと思います。
記事末尾には、待望の高木耕一郎の新作リリース情報も掲載しています。是非最後までお読みください。
シルクスクリーンとは
シルクスクリーンは、木枠やアルミ枠に張ったメッシュ状の布の網目を、絵柄の部分を除いて、インクが通らないようにふさぎ、絵柄の形状に空いた孔(あな)からスキージ*によってインクを押し出し、下の紙などに印刷する技法です。
シルクスクリーンの制作工程については、上記の5分程の映像を見ることでおおよそ理解することができます。ただ映像の1:08から2:17までの作業は、「いったい何をしているだろう?」という疑問が浮かぶと思います。この工程を理解するには、感光乳剤について知る必要があります。
*スキージ:ゴムベラ
感光乳剤とは
感光乳剤はジェル状の物質で、光の照射によって化学反応を起こし硬化する性質を持っています。シルクスクリーンにおける感光乳剤の役目は、この性質を活かし、“スクリーン”と呼ばれるメッシュ状の布にインクが通る部分と通らない部分を作ることにあります。
具体的な作業工程としては、①感光乳剤をスクリーンに塗布し乾燥させる②透明なフィルムに絵柄を出力し“ポジフィルム”を作成する③スクリーンとポジフィルムを密着させ紫外線を照射するという流れになります。
ちなみに“ポジフィルム”とは、不透明な絵柄(通常は黒色)を透明または半透明な面に描いたものです。
スクリーンに塗布された感光乳剤は、紫外線が当たることで、化学反応を起こし固まります。感光乳剤が硬化することで、布の編目がふさがり、インクが通らなくなります。
一方で、紫外線から遮光(しゃこう)した絵柄部分は、光による化学反応が起きないため、感光乳剤は固まりません。そのため、絵柄部分に付着する感光乳剤は水で洗い流すことができ、布の編目はふさがらず、インクが通る孔(あな)が作られます。
このように感光乳剤の働きを知ることで、シルクスクリーンを深く理解することができます。
シルクスクリーンの2つの特徴
シルクスクリーンは、主に2つの特徴を持っています。1つ目は、紙を始め、布地、ガラス、アクリル、木材、石材など多種多様なものに印刷できることです。
身近なところでは、自動販売機のサンプル缶もシルクスクリーンで印刷されています。屋外に置いても色褪せ(いろあせ)がなく、印刷時の発色を長期間保つことができることから、シルクスクリーンが選ばれています。
2つ目は、インクを厚く盛ることでき、ラメなど大きな粒の材料をインクに混ぜて刷ることができるため、幅広い色彩表現が行えることです。
手で触って凹凸を感じる程にインクを盛ることができるため、他の印刷では難しい深い濃い色を表現することが出来ます。一般的にはオフセット印刷の10倍程度の厚みだと言われています。
シルクスクリーンとセリグラフの違い
シルクスクリーンは、印刷する対象物を選ばず、大量印刷が可能であるため、主に商工業分野で発展を遂げてきました。
印刷技術の向上とともに、アート作品に対しても、シルクスクリーンが徐々に使われるようになります。
1930年代に入り、商工業利用のシルクスクリーンと差別化を図るため、フィラデルフィア美術館の館長カール・ジグロッサー(Carl Zigrosser)が、“セリグラフ”という新しい名称を提案しました。
セリグラフ(Serigraph)は、ラテン語で絹を意味する“Seri”、ギリシャ語で描くことを表す“Graphos“、これら2語を組み合わせた造語です。
1938年、ガイ・マッコイ(Guy Maccoy)が、ニューヨーク現代美術館にて『セリグラフ(Serigraphs)』と題したシルクスクリーンの展覧会を初めて開催しました。
結論としては、シルクスクリーンは、セリグラフと同義の印刷技法です。商工業分野におけるシルクスクリーンと区別するため、セリグラフという別称が付けられました。
Googleトレンド*の結果に限っていえば、セリグラフよりもシルクスクリーンと検索にかける人たちが圧倒的多いです。日本では、シルクスクリーンという言葉のほうがセリグラフよりも定着しているようです。
*Googleトレンド:ある単語がGoogleでどれだけ検索されているかというトレンドをグラフで見ることができるツール。
シルクスクリーンとスクリーン印刷の違い
第二次世界大戦末までに、パラシュートに使われていた絹が、安価で耐久性のあるポリエステルに切り替わりました。
新しい合成繊維の登場は、軍に留まらずアートの世界にも影響を及ぼしました。シルクスクリーンにおいても、木枠に張られていた絹がポリエステルなどに代わりました。
シルクスクリーンは、絹(シルク)を使用しなくなったことで、“シルク”という言葉を除き、スクリーン印刷もしくはスクリーン・プリントと呼ばれるようになりました。
ただ日本では“シルクスクリーン”という表現は、今でも使われています。Googleトレンドで調べてみると、多くの人たちが、シルクスクリーンというキーワードで検索にかけています。
一方で米国では、Silkscreen printと検索にかけている人はほぼ皆無に近く、Screen printが一般的に定着しているようです。
高木耕一郎の新作シルクスクリーン発売決定
シルクスクリーンつながりで、皆さまに共有したいことがあります。Jet-Black Galleryは、東京を拠点に活動するアーティスト高木耕一郎と手を組み、新作シルクスクリーンをリリースします。さらなる詳細は後日お伝えします。ご期待ください。
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参考資料:
・グラフィック社編集部『デザインのひきだし16 スクリーン印刷ですごい印刷』(グラフィック社、2012年)
・キャスパー・ウィリアムソン『世界のスクリーン印刷 グラフィック・コレクション』(グラフィック社、2013年)
・多摩美術大学校友会編『新しいシルクスクリーン入門』(誠文堂新光社、2001年)
・acureアキュア, 色鮮やか!本物みたいに「おいしそう」!”自販機の顔”を彩る<印刷のエキスパートたち>
・GUY MACCOY, “BIOGRAPHY”
・Middlesex University, “Printmaking at Middlesex: Screenprinting”
・Quality Logo Products, “How Emulsion Works (in Less Than 1 Minute)”